石山宏一の新語ウォッチング

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桐蔭横浜大学客員教授 石山宏一
石山先生のプロフィール  
<第141回> Updated April 10, 2017 更新日:2017年4月10日

今月の新語ファイル

英和編 deep state ディープ・ステート

deep state(発音は「ディープ・ステート」)とは文字通りは「深みのある国」あるいは「深い国」であるが、a state within a stateあるいは a shadow government とも呼ばれ、「国家の中の国を指し、一国の中で、内部の機関・組織がトップの政治・行政的命令やリーダーシップに応じない(従わない・応じえない)状態」を指す新語(注1)。この新語は元来は17世紀の政治哲学者のバールーフ・デ・スピノザ (Baruch De Spinoza) が指摘したラテン語の imperium in imperio(帝国内の帝国)に由来し、昨年(2016年)初頭の米大統領選挙中にネットで造語されたが、最初は広まらなかった。しかし、今年になって米ドナルド・トランプ大統領側近が「政権内で極秘情報が漏れている」として声高に deep stateの存在を主張しはじめ、The Washington Post や The New York Times等の主流米国メディアにも取り上げられ、全世界に広まった(注2)。

それにしても、最新の報道によると、トランプ政権における deep state への攻撃はかまびすしい。ことの発端は今年2月13日に当時のマイケル・フリン大統領補佐官(国家安全保障担当)が辞任した事件で、その理由は同補佐官がトランプ政権発足前にロシア当局者と対ロ制裁緩和について協議した疑惑があったためである。ところが2日後の15日にウォール・ストリート・ジャーナル紙が「米国の情報当局者は極秘情報をトランプ大統領には渡らないように隠している」と報じた。その理由としてフリン辞任に見られるように、トランプ大統領とその側近が極秘情報をロシア側に漏らすのを関係者が恐れたためと伝えた(注3)。

これにすぐさま反応したのが保守系のニュースサイトで現在のホワイトハウスに最も近い「ブライトバート・ニュース」(Breitbart News) で、同サイトは米連邦調査局 (FBI) が以前からフリン補佐官の電話の盗聴をしており、その記録をマスコミに流し、辞任に追い込んだと報じ、「deep state の抵抗が始まった」と見出しにこの言葉を使い、一気にこの言葉が広まった(注4)。

つまり、現在のトランプ政権には deep state が存在しており、その中には FBI、中央情報局 (Central Intelligence Agency = CIA) 等や、それを統括する2012年創設された国家情報局長室 (The Office of the Director of National Intelligence) が含まれ、機密情報は米国トップの大統領やホワイトハウスには教えていないというわけである(注5)。このためトランプ政権内部では極秘情報をめぐって内部対立が激化しており、3月4日にはトランプ大統領が突然証拠も示さずに、前オバマ政権が以前自宅があった(今でもある)ニューヨークのトランプタワーの電話を盗聴していたとツイッターで発表し、物議を醸し出した。その後 FBI長官は「証拠なし」とすぐに否定したが、その真偽の程は未だに明らかになっていない。アメリカ政府はどうなっているのだろうか。非常に心配である。

deep state(可算名詞)の邦訳語であるが、いろいろ調べた結果上記のように直訳の「ディープ・ステート」を適訳語とした(注6)。意訳して「国(家)の中の国(家)」あるいは「影の政府」も訳語として考えたが、それでは新味にかけ、「ディープ・ステート」の方が日本では訳語としてより目を引き、浸透しやすいと判断したためである。

[訳例]としては東京新聞(紙版)が「太郎の国際通信/トランプの国か『深みの国』か」と題した記事で「...最近、『ディープ・ステート』という言葉が、保守系の米マスコミで盛んに見聞されるようになってきた...」として「ディープ・ステート」を訳語として挙げていた(注7)。

[用例1]としては The Washington Post (online) が “What an actual ‘deep state’ looks like?” と題した記事で、 “Key figures in the White House see themselves locked in a battle with the “deep state” - a term they’re using...to describe “a group of Obama-aligned critics, federal bureaucrats and intelligence figures” as well as media...” として “deep state” を使用していた(注8)。

[用例2]としては The New York Times (online) が “What Happens When You Fight a ‘Deep State’ That Doesn’t Exist” と題した記事で、 “The Trump administration, in its fight against the “deep state,” could risk exacerbating the very problems it has pinned on shadowy bureaucratic forces: leaking, internal conflict and the proliferation of institutions like intelligence agencies...” として “deep state” を使用(注9)。

[用例3]としては Wikipedia (online) が “Deep state in the United States” と題した記事で、“The idea of a deep state in the United States is a conspiracy theory whose adherents assert that there exists a coordinated effort by career government employees to influence state policy without regard for democratically elected leadership...” として “deep state” を使っていた(注10)

注1) 上記[用例1][用例2][用例3]参照。また、東京新聞(紙版)2017年2月26日朝刊、3面「太郎の国際通信/トランプの国か『深みの国』か」参照。またバールーフ・デ・スピノザは英米ではラテン語名のベネヂクトウス・デ・スピノザ (Benedictus De Spinoza) あるいは最も有名なベネデクト・スピノザ (Benedict Spinoza) として知られる(See Benedict Spinoza 1632-1677, in History of Political Philosophy edited by Leo Strauss and Joseph Cropsey (The University of Chicago Press, 1987), pp.456-475).
注2) 上記[用例1][用例2][用例3]と上記東京新聞記事参照。また、昨年9月に出版されたマイク・ロフグレン (Mike Lofgren) 著の deep state に関するペーパーバック The Deep State: The Fall of the Constitution and the Rise of a Shadow Government (Penguin Books) は世界でベストセラーになった。
注3) 上記東京新聞記事参照。
注4) 同上。
注5) 上記の[用例1]The Washington Post 記事参照(ここでは引用されていない)。
注6) 最新オンライン辞典の「英辞郎」(アルク)には deep state の項目は無かったが、同辞典の Weblio は日本語の訳語はなく、Wiktionary の英語の説明を掲載していた(両方とも2017年4月3日時点) (See Wiktionary, “deep state” (https://en.wiktionary.org/wiki/deep_state)
市井の英和辞典にはもちろん deep state の項目はない。
注7) 東京新聞(紙版)2017年2月26日朝刊、3面「太郎の国際通信/トランプの国か『深みの国』か」参照。
注8) The Washington Post (online), March 7, 2017, “What an actual ‘deep state’ looks like?” (https://www.washingtonpost.com/news/worldviews/wp/2017/03/07/what-an-actual-deep-state-looks-like/?utm_term=.bfd03c4319af) (Seen on April 3, 2017).
注9) The New York Times (online), March 17, 2017, “What Happens When You Fight a
‘Deep State’ That Doesn't Exist” (https://www.nytimes.com/2017/03/10/world/americas/what-happens-when-you-fight-a-deep-state-that-doesnt-exist.html?_r=0) (Seen on April 3, 2017).
注10) Wikipedia (online), “Deep state in the United States”) (https://en.wikipedia.org/wiki/Deep_state_in_the_United_States) (Seen on April 3, 2017)




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