石山宏一の新語ウォッチング

いまいちばんホットな英語の新語を、皆様にいちはやくお届けします!

桐蔭横浜大学客員教授 石山宏一
石山先生のプロフィール  
<第144回> Updated July 3, 2017 更新日:2017年7月3日

今月の新語ファイル

和英編 没イチ the loss of a spouse

没イチ」(ぼついち)とは明らかに「バツイチ」(「離婚一回経験者」の意)をもじったもので、日本で急増している65歳以上の高齢者を背景に「配偶者と死別した人」を指す新語(注1)。「没」とは「没する」(「死ぬ」の意」)の名詞形。この新語は2年前の2015年頃にインターネットのブログで造語され、その後に任意団体「没イチの会」が結成されてから広まり、最近になってNHKや日本経済新聞などの主要なマスコミが取り上げ、あっという間に浸透した(注2)

最新の報道によると、「没イチ」の人たちは過去25年で1.5倍と急増しているが、死別に伴う悲哀や喪失感から抜け出して新しい生き方を求める人も増えており、こうした動きに企業も注目して“おひとりさま専用旅”や“高齢者専門の再婚相談”など新たなビジネスチャンスも狙っているという(注3)。特に「没イチ」の新語を広めたのは2015年7月に結成された「没イチの会」で、立教大学が設立した中高年向けの「立教セカンドステージ大学」での受講者が母体である。そこで「死について考える」授業を担当する第一生命経済研究所主任研究員の小松みどりさんが呼びかけ、現在メンバーは8人で男性は3人という(注4)。

呼びかけ人の小松さん自身も6年前の2011年に夫を亡くしたが、大学の書類で配偶者の関係を聞かれる欄があり「未婚、既婚、離死別(りしべつ)の選択肢」があって、最後の離婚と死別が一緒にされていることにかなりの違和感があり、これが「没イチの会」を立ち上げた最大理由という。彼女いわく、「離婚する方は4組に1組しかいないが、死別するカップルはすべてのカップルがどちらかが死別するわけで、その人への可哀相という世間の受けとめ方を変えたかった」(注5)。同会では「亡くなった方の仏壇にいつまでご飯(陰膳)を供える」とか「亡くなった配偶者がいつまで夢に出てきた」等とかオープンに話合い、死別のマイナスイメージをできるだけプラスに変えているという(注6)。

また、上記のように「没イチ」でイキイキとして生きる人も増えており、そのためには「意識して人と会い、よく食べ、できれば仕事をして、社会との接点をできるだけ保つのがコツ」という。筆者(現在70歳)も結婚して35年経ち、身につまされる話で「終活」は既に始めだしたが、「没イチ」としての準備も始めることにした。しょうがない。生あるものは必ず没するのであるから!

没イチ」の英訳語であるが、訳語を色々調べ検討した結果、the loss of a spouse あるいは losing a spouse、または spouse loss が適訳語となった(注7)。spouse とは「配偶者」の意で、つまり「配偶者ロス」と訳したわけである。「没イチ」に関して女性は「未亡人」、男は「男やもめ」ともいい、英語では各々 a widow, a widower と訳されるが、この訳語では日本語の「没イチ」のニュアンスがよく出ていないと思い採用しなかった。

[訳例1]としては The New York Times (online) が“The Anguish of Losing a Spouse”と題した記事で“...A spouse's death leaves an emptiness that is hard to fill. There's no one in the house...”と losing a spouse を使用(注8)。

[訳例2]としては The Huffington Post (online) が“The Blog: How to survive the loss of a spouse”と題した記事で“The death of a spouse is rated as one of the most distressing events in life...”と the loss of a spouse を使っていた(注9)

注1) NHK総合テレビ2017年6月13日午後10:00~10:25、「クローズアップ現代/おひとりさま上等“没イチ”という生き方」参照(サイトはhttps://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3990/ であるが、これはイントロだけであり全番組内容は書いてない)。また産経新聞(オンライン版)2016年12月30日、「トレンド日本/バツイチならぬ「没イチ」/そうなった時の新しい生き方を考えよ」(http://www.sankei.com/life/news/161230/lif1612300005-n1.html) と日本経済新聞(オンライン版)ヘルスUP、「介護に備える/「没イチ」男一人でもイキイキ/妻亡き後の心構え」(http://style.nikkei.com/article/DGXMZO98598580Y6A310C1NZBP00?channel=DF140920160925) 参照。また日本で現在唯一の紙版新語事典の「現代用語の基礎知識2017」(自由国民社2016年刊)やネット版百科事典 JapanKnowledgeには「没イチ」の項目はなかった(2017年6月27日時点)。
注2) 上記各記事照。また、「バツイチ」に関して、「2回離婚経験者」は「バツ2(に)」、「3回離婚経験者」は「バツ3(さん)」等という。面白いことに「没2」、「没3」といういい方はない。そんな例はまれだからであろう。
注3) 上記NHK記事参照。
注4) 上記日経記事参照。
注5) 上記NHK記事参照。
注6) 同上。
注7) 最新オンライン辞典の「英辞郎」(アルク)や Weblio には「没イチ」の項目は無かった(2017年6月27日時点)
注8) The New York Times (online), April 5, 2010, “The Anguish of Losing a Spouse” (https://well.blogs.nytimes.com/2010/04/05/the-anguish-of-losing-a-spouse/) (Seen on June 27, 2017)
注9) The Huffington Post (online), Feb. 8, 2017,“The Blog: How to survive the loss of a Spouse” (http://www.huffingtonpost.com/d-keith-cobb-md/death-of-spouse_b_1088198.html) (Seen on June 28, 2017)




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