石山宏一の新語ウォッチング

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桐蔭横浜大学客員教授 石山宏一
石山先生のプロフィール  
<第117回> Updated April 6, 2015 更新日:2015年4月6日

今月の新語ファイル

和英編 出産ツアー birth tourism

出産ツアー」とは耳慣れない言葉だが、これは「主に中国に住む富裕層の中国人妊婦を対象に、米国で出産させ、生まれた子供に米国籍と米国旅券を取得させる旅行サービス」を指す新語(注1)。この新語は数年前に旅行業界で造語されたが、最初は業界用語 (jargon) に留まっていた。しかし、今年3月初旬、「出産ツアー」の急増に業を煮やした米当局が大規模な強制捜査を行ったため、米国の『ウォール・ストリート・ジャーナル』等の英米の主要マスコミが報道し、日本のマスコミも翻訳してこぞって取り上げるなど、一気に世界で広まった(注2)。

この新語の背景には、米国では国籍を決定する際に「出生地主義」(注3)を採択しており、米国内で誕生すると自動的に米国籍と米国旅券を獲得できるという連邦法がある。最新報道によると、米国の連邦警察 (正式名称は「連邦捜査局」(Federal Bureau of Investigation (FBI)) は、3月3日(現地時間)に中国人妊婦を多く滞在させている「妊婦ホテル」など37か所に立入り、書類やおむつ (diapers) 等を証拠品として押収した(注4)。捜査にはFBIの他に国土安全保障省 (Department of Homeland Security)、国税庁 (Internal Revenue Service (IRS))、移民税関捜査局 (Immigration and Customs Enforcement (ICE)) などが加わった。

米国では外国人の妊婦が入国することも、妊婦が米国で出産することも違法ではないが、ビザ取得の目的のために虚偽の理由を書かせることは違法である。このため米当局は、米中両国の旅行業者が、生まれた子供に米国籍を取らせるのが目的であるにも拘らず、入国の際に「観光」目的とウソの申告をしたことを問題視し、数百万ドル(数億円)規模に達した同ビジネス形態そのものを摘発したもの。米当局はこのビザの不正取得の他に、脱税、共謀、マネーロンダリング等の容疑でも捜査している。

この「出産ツアー」では出産の数か月前に渡米し、出産後1か月程で帰国する。米メディアによると、中国国籍の女性が米国内で産んだ子供の数は、2008年には約4,200人だったが、2012年には約1万人に急増した。台湾や韓国、トルコ国籍の妊婦もいるという(注5)。これはれっきとした犯罪である。

出産ツアー」の英訳語であるが、色々調べた結果、適訳語としてはほぼ直訳の birth tourism が挙げられよう(注6)。birth の代わりに childbirth でもよい。完全直訳の birth tour とすると、日本語の「ツアー」に含まれる「旅行ビジネス形態」のニュアンスが訳出されないので、採用しなかった。また米国ではmaternity tourismも訳語として使われている。出来たてほやほやの新語ということで訳例は僅かしかなかったが、[訳例1]としては米国の The Wall Street Journal Asia(紙版)が2015年3月5日付けで、'Agents Raid California Birth-Tourism Centers' とタイトルを付けた記事で "...Federal agents executed search warrants at several Southern California sites they say are connected to three multimillion-dollar birth tourism businesses..." と birth tourism を使っていた(注7)。[訳例2]は The New York Times (online)が2015年3月5日付けで、'California Apartments Raided in Federal Investigation of Chinese 'Birth Tourism'' とタイトルを付けた記事で、"Federal agents stormed 37 locations in Southern California early Tuesday, gathering evidence about what they say are three illegal “birth tourism" businesses for wealthy Chinese women..." としていた(注8)。

注1) 上記[訳例1]、[訳例2]と『朝日新聞』(紙版)2015年3月5日朝刊、11面「中国人の『出産ツアー』米が捜査」、および『日本経済新聞』(電子版)2014年2月17日、「中国人女性、サイパンで出産急増、新生児は米国籍取得OK」参照(『日経新聞』のHPはhttp://nikkei.com/であるが、記事は有料で、そのURLも長すぎるため割愛した(2015年4月1日時点)。上記の『朝日新聞』記事は電子版のhttp://www.asahi.com/articles/ASH344VH5H34UHBI01G.html でも見られる。なお、英語版のWikipedia (online), “birth tourism” (http://en.wikipedia.org/wiki/Birth_tourism)も参照のこと(2015年4月1日時点)。日本最大の新語辞典の『現代用語の基礎知識2015』(紙版)(自由国民社、2014年刊)や、オンラインフリー百科事典『ウィキペディア』(日本語版)には「出産ツアー」の項目はなかった。
注2) [訳例1]、[訳例2]、および上記『朝日新聞』と『日本経済新聞』記事参照。
注3) 「出生地主義」は元来ラテン語の jus soli(カタカナ読みでは「ジュス・ソリ」)を翻訳したもので、英語では the right of the soil と言う。国籍取得の他の方法としては「血統主義」があり、これは親のどちらかの国籍が子の国籍となる方式である。「血統主義」は元来ラテンの jus sanguinis (カタカナ読みでは「ジュス・サングイニス」)を翻訳したもので、英語では the right of blood と言う。
注4) [訳例1]、[訳例2]、および上記『朝日新聞』と『日経新聞』記事参照。
注5) 同上。
注6) 日本最大で最新のオンライン辞典のWeblio(無料)や同「英辞郎」(アルク)には「出産ツアー」の項目がなかった(2015年4月1日時点)。もちろん、市井の紙版の和英辞典には「出産ツアー」の項目はない。
注7) See The Wall Street Journal Asia (print), March 5, 2015, p. 3, “Agents Raid California Birth-Tourism Centers”
注8) See The New York Times (online), March 3, 2015,“California Apartments Raided in Federal Investigation of Chinese ‘Birth Tourism'"
(http://www.nytimes.com/2015/03/04/us/california-homes-raided-in-federal-crackdown-on-chinese-birth-tourism.html?_r=0) (Seen on April 1, 2015).




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