石山宏一の新語ウォッチング

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桐蔭横浜大学客員教授 石山宏一
石山先生のプロフィール  
<第134回> Updated September 5, 2016 更新日:2016年9月5日

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英和編 gig economy ギグ・エコノミ-

gig economy (発音は「ギグ・エコノミー」)とは gig (米俗語で「極めて短期間の非正規仕事」)と economy (経済)の合成語で「非正規雇用の労働者が多数を占める経済」を指す新語(注1)。これは本コラムで昨年10月5日(123回)に取り上げた「sharing economy」(シェアリング・エコノミー)の派生語である。この新語の発端は数年前に米国で Uber Technologies Inc. や Lyft が始めたスマホ等の携帯電話のアプリを使った手軽なハイヤーサービスで、その仕事を請け負う極短期のドライバーが急増し、他のアプリにより同様業務の労働者が全世界で拡大したため米国で造語された。その後、Financial Times や The New York Times 等の主流英米メデイアも取り上げ世界的に広まった(注2)。

最新の報道によると、このケータイのアプリ (mobile apps) による米国の「非正規雇用の労働者」が急増している(注3)。ある調査によると、その労働者の数は2005年から2015年までに950万人も増加したという。この結果、gig economy の労働者は2015年には全労働者の15.8%に達し、10年前の10.1%より6%弱増えたことになる。

前述した sharing economy とは「様々なモノやサービスを他人と共有する経済やビジネス」を指すが、その共有は単に Uber 等の自動車の共同利用に限定されず、民泊やクラウド・ファンデイング (crowd funding) 等ありとあらゆる「モノやサービス」に拡大している。この gig economy に参入する労働者は主に1980年前後から2000年代前半に生まれた「Y世代」 (Y Generation) と呼ばれる「ミレニアル世代」 (millenials) や、キャリアの中途で失職した専門職や、様々な理由で退職を延期せざるを得なくなった「団塊の世代」だという。

ただ重大な問題は、この gig economy の労働者はほとんどが「独立契約労働者」(independent contractors) として分類され、「被雇用者」 (employees) とは扱われないため、一般の会社員と違って年金、健康保険等の社会保険、有給休暇、昼休み等の特典 (fringe benefits) が一切ない点である(注4)。つまり、Uber みたいな雇用者 (employers) は雇う人の社会保険や事故やケガによる所得減少での賠償等を背負う必要がなく非常に都合がよい。翻って、「被雇用者」は何の保証もないため、退職後の生活設計が描けないことになる。これは gig economy が全世界で拡大するにつれ、本当に喫緊の課題となろう。

gig economy (不可算名詞)の邦訳語であるが、色々調べた結果、上記のように直訳の「ギグ・エコノミー」を適訳語とした(注5)。意訳して「非正規雇用型労働経済」の訳語も考えたが、くどいしパンチ力が無いと判断し採用しなかった。

[用例1]としては Financial Times (print) が “Gig economy poses benefits challenge”と題した記事で、“...Instead he operates in a grey zone that is expanding quickly as more Americans find work via online platforms or apps in what is known as the gig economy...” として “gig economy” を使用していた(注6)。

[用例2]としては The New York Times (online) が “With ‘Gigs’ Instead of Jobs, Workers Bear New Burdens”と題した記事で、 “If you believe the Silicon Valley slogneers, we are in a “gig economy,” where work consists of a series of short-term jobs coordinated through a mobile app. That, anyway, is both the prediction of tech executives and futurists and the great fear of labor activists...” として “gig economy” を使っていた(注7)。

注1) 上記[用例1][用例2]参照。gig とは一般には海洋用語で「長いオールで漕ぐ軽いボート(ギグ)」、またフィッシング(釣り)の「引っ掛け針」あるいは「(学校・軍隊などでの)規則違反、罰点」の意味があるが、他に米国ジャズ業界の俗語で「ミュージシャンの一晩限りの演奏」を指し、この意味から転じて米国では「極めて短期間の仕事」を意味するようになった(「プログレッシブ英和中辞典 第5版」(小学館、2012年刊)864頁「gig」参照)。
注2) 上記[用例1]参照(ここでは引用されていない)。Also see Financial Times (print), May 20, 1916, p.16, “‘Gig economy’/Warren lashes out against Uber and Lyft”
注3) 上記[用例2]参照(ここでは引用されていない)。
注4) 同上。
注5) 日本最大で最新のオンライン辞典 Weblio には gig economy の項目は無かったが、同辞典の「英辞郎」(アルク)は「非正規雇用が多い労働市場」と訳していた(両方とも2016年8月30日時点)。同様に、市井の紙版の英和辞典には勿論 gig economy の項目はない。
注6) Financial Times (print), Aug. 24, 1916, p.4, “Gig economy poses benefits challenge”
注7) The New York Times (online), March 31, 2016, “Upshot/With ‘Gigs’ Instead of Jobs, Workers Bear New Burdens”(http://www.nytimes.com/2016/03/31/upshot/contractors-and-temps-accounted-for-all-of-the-growth-in-employment-in-the-last-decade.html?_r=0) (Seen on August 30, 2016).




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