石山宏一の新語ウォッチング

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桐蔭横浜大学客員教授 石山宏一
石山先生のプロフィール  
<第137回> Updated December 5, 2016 更新日:2016年12月5日

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英和編 post-truth ポスト真実

post-truth(発音は「ポストトルース」)とは接頭辞 post-(~の後)と truth(真実、事実)の合成語で、「客観的事実や真実が、その後に重要視されない状態」を指す新語(注1)。これは簡単にいえば、特に政治・外交の分野で歴史的事実や科学的結果などが無視され、デッチあげられた意見・主張が真実味を帯び、支持される状況をいう。これは post-truth politics(政治)や post-truth era(時代)のよう形容詞として用いられる。この新語は24年前の1992年に有名な劇作家ステイーブ・テシッシュ(Steve Tesich) がペルシャ湾岸戦争に関連して造語したとされるが、最初は広まらなかった。

しかし、6年前の2010年にネットのブログで再び大きく取り上げられ、今年になって6月の英国の欧州連合(EU)からの離脱(Brexit)や、米大統領選挙で候補者同士の醜い根拠のない非難合戦でこの新語が多用された。そして今年12月16日に英語の世界的権威の一つである Oxford English Dictionary を発行する英国オックスフォード大学出版局が、今年の国際的新語(International Word of the Year)として選んだことで有名となり、The Washington Post や東京新聞等の主流英日メデイアにも取り上げられ、全世界に広まった(注2)。

この新語が用いられた例を挙げよう。例えば英国は6月下旬に国民投票でEU離脱を決定したが、その時に離脱派が支持をあおるために「英国はEUに毎週3億5千万ポンド(約476億円)拠出している」などと事実に反するスローガン(post-truth slogan)をネットやその他のメデイアで使い、その結果この主張(assertion)があたかも事実として英国中に流布し、離脱派が勝つ決定的要因となった(この主張は投票後に撤回された)(注3)。また、ドナルド・トランプが大方の予想を裏切って勝利した米大統領選挙では、対抗馬の民主党ヒラリ-・クリントン候補を倒すために「現職のオバマ大統領(民主党)が過激派組織『イスラム国』(Islamic State (IS))を作った」といったデマ主張(post-truth rhetoric)がネット、特に Twitter や Facebook 等の SNS(Social Network Service)で出回った(この主張もその後、流した張本人の陣営が撤回した)(注4)。ネットではこうした post-truth assertion が毎日溢れており、小生も含めて読者も大いに注意すべきであろう。

post-truth(形容詞)の邦訳語であるが、いろいろ調べた結果上記のように直訳の「ポスト真実」を適訳語とした(注5)。「ポスト真実」の後に「の」を入れて「ポスト真実の」としてもよい。この訳語には post という接頭辞(prefix)が「ポストモダン」や「ポストヌーベルバーグ」のように日本語でも使われており、通じるだろうと判断したからである。「反真実」や「反事実」も訳語として考えたが、post-truth は今までの伝統的な「単なる事実や真実と違うこと」を意味するだけではなく、その主張が何回も繰り返されることにより独自の意味を持ち、支持されている状況を示すため、「反真実」や「反事実」とだけ訳すのは不適当と判断した。

[訳例]としては東京新聞(紙版)が「ポスト真実/[POST-TRUTH]客観的事実や真実が重要視されない時代」と題した記事で、「...英国オックスフォード大学出版局は、今年の言葉として...「ポスト真実post-truth)」を選んだ...」として「ポスト真実」を訳語として挙げていた(注6)。

[用例1]としては、The Washington Post (online) が“‘Post-truth’ named 2016 word of the year by Oxford Dictionaries”と題した記事で、“Oxford Dictionaries has selected “post-truth” as 2016's international word of the year, after the contentious “Brexit” referendum and an equally divisive U.S. presidential election caused usage of the adjective to skyrocket, according to the Oxford University Press...” として “post-truth”を使用していた(注7)。

[用例2]としては、Wikipedia (online) が“Post-truth politics”と題した記事で、“Post-truth politics...is a political culture in which debate is framed by largely by appeals to emotion disconnected from the details of policy, and by the repeated assertion of talking points to which factual rebuttals are ignored...” として“post-truth”を使用(注8)。

[用例3]としては、The New York Times (online) が“The Age of Post-Truth Politics” と題した記事で、“Facts hold a sacred place in western liberal democracies... But they seem to be losing their ability to support consensus.… We have entered an age of post-truth politics...” として“post-truth”を使っていた(注9)。

注1) 上記[用例1][用例2][用例3]参照。また、東京新聞(紙版)2016年11月18日朝刊、1面「ポスト真実/[POST-TRUTH]客観的事実や真実が重要視されない時代」と産経ニュース(電子版)2016年11月17日、「今年の英単語はポスト真実/[POST-TRUTH] 英オックスフォード大が選出」参照(http://www.sankei.com/life/news/161117/lif1611170035-n1.html)。なお、本コラム執筆にあたっては、日本メディア英語学会第130回新語・語法研究分科会(2016年11月12日開催)での小池温氏の発表を参考にした。ここに記して感謝したい。
注2) 上記[用例1][用例2][用例3]と上記東京新聞記事参照。Also see Financial Times (FT) (print), Nov. 27., 1916, p.9, “FT BIG READ: SOCIAL MEDIA/False stories became headlines news in a divisive US election. Facebook and Twitter are belatedly tackling the problem but critics say nothing will change unless they accept their role as publishers” また、2004年には米評論家のラルフ・キーズ(Ralph Keyes)が“Post-truth Era”と題する著作を発表しベストセラーとなり、post-truth の新語が世界に広まった。
注3) 上記東京新聞記事参照。
注4) 上記東京新聞記事と上記FT記事参照。
注5) 最新オンライン辞典の「英辞郎」(アルク)には post-truth の項目は無かったが、同辞典の Weblio は日本語の訳語はなく、Wiktionary の英語の説明を掲載していた(両方とも2016年11月28日時点)。同様に、市井の紙版の英和辞典には勿論 post-truth の項目はない。
注6) 東京新聞(紙版)2016年11月18日朝刊、1面「ポスト真実/[POST-TRUTH]客観的事実や真実が重要視されない時代」
注7) The Washington Post (online), Nov.16, 1916, “‘Post-truth’ named 2016 word of the year by Oxford Dictionaries”(https://www.washingtonpost.com/news/the-fix/wp/2016/11/16/post-truth-named-2016-word-of-the-year-by-oxford-dictionaries/) (Seen on Nov.28, 2016).
注8) Wikipedia(online),“Post-truth politics”(https://en.wikipedia.org/wiki/Post-truth_politics) (Seen on Nov. 28, 2016).
注9) The New York Times (online), Nov. 21, 2016, “The Age of Post-Truth Politics” http://www.nytimes.com/2016/08/24/opinion/campaign-stops/the-age-of-post-truth-politics.html?_r=0 (Seen on Nov.28, 2016).




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