石山宏一の新語ウォッチング

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桐蔭横浜大学客員教授 石山宏一
石山先生のプロフィール  
<第142回> Updated May 8, 2017 更新日:2017年5月8日

今月の新語ファイル

英和編 the blob 超大国アメリカ信奉者(ブロブ)

the blob(発音は「ザ・ブロブ」)の blob とは元来は「斑点、染み、球状の固まり」を意味するが、最近の米国のトランプ政権にからむ米国政治で「かつての米国外交政策の主流派 (the establishment)」を指し、「昔、米国が世界の警察国家で、安全保障上で世界の中心地であったのに、今はそうではないのを嘆き悲しんでいる連中」を示す新語(注1)。そうした特定の連中を指すため定冠詞 the が前に付いている。この新語は元々はバラク・オバマ大統領のスピーチライターであるベン・ローズ (Ben Rhodes) 氏が2010年代前半に米国が世界の中心地であった時代の主流派を揶揄して造語したものだが、その後はその使用が廃れていた。しかし、今年4月になってトランプ大統領がシリア政権軍にミサイルを打ち込んだり、核開発を続ける北朝鮮に対して厳重な警告を発するようになると、主流英米メデイアの Financial Times, The Washington Post 等が頻繁に取り上げ、全世界に広まった(注2)。

最新の報道によると、トランプ政権が去る4月6日にシリア・アサド政権軍に対する29発の巡航ミサイルを発射したが、この決断が the blob に対して起こした安堵感と歓喜はすさまじかった。The New York Times 等のトランプ政権にそれまで批判的なリベラル新聞やタカ派の上下院議員がその攻撃をこぞって支持した。その主なる理由はアサド政権が民間人とコドモに化学兵器を使ったことに対する大勢の嫌悪感があった。しかし、それ以上に決定的な理由はトランプ大統領の行動が「米国が世界の警察官 (world policeman) としての役割を復活させる証拠ではないか」との期待感である(注3)。

前オバマ政権時代の2013年にも、シリアで化学兵器が使われ、アサド政権が米国にとって「レッドライン (redline=越えてはならない一線)」を越えたにも拘らず、オバマ大統領は何もしなかった。なおかつ、オバマ氏は「アメリカはもはや世界の警察国家ではない」と言明した。この不作為と言明は the blob に不安を与えたことは言うまでもない。その上、トランプ氏が大統領選挙中、米国は「警察国家にはならない」し、「アメリカファースト」と主張し孤立主義的政策を追求すると繰り返した。このため、the blob の連中は絶望感を抱き、米国の世界大国としての地位は完全に落ち、武力行使を全面放棄するのではないかと危惧した。そのため、あの巡航ミサイル攻撃は喝采のシグナルであった(注4)。また、4月中旬には米国は核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対して空母カール・ビンソン (Carl Vinson) をインド洋から日本海沖に派遣して厳重な警告を発するようになったため、the blob の連中は歓喜したのである。
問題は the blob(元来は「染み」「塊り」の意)と冷笑的に名づけられた理由は、そうした過去の世界警察国家的な武力行使が米国を泥沼化したイラク・アフガニスタン戦争に巻き込んで多くのアメリカ人が犠牲になったからである(注5)。そうした教訓も理解できるが、世界で唯一の超大国の米国がやはり北朝鮮やシリア等の「ならず者独裁国家」(rogue dictator states) を懲らしめるために武力の行使は必要であろう。

the blob の邦訳語であるが、いろいろ調べた結果いい適訳語例は無かったので、筆者の創作した意訳で恐縮するが「超大国アメリカ信奉者(ブロブ)」を適訳語とした(注6)。「超大国アメリカ信奉者」の次に「(ブロブ)」を付けたのは英語の原語のニュアンスを示したかったためである。単に「ブロブ」を訳語としては英語を全然理解できない人は皆目見当も付かないので採用しなかった(注7)。

[用例1]としては Financial Times (print) が “How the blob swallowed Trump” と題した記事で、 “...The Washington foreign policy establishment, a group derisively labelled as “the blob” in Barack Obama's White House, is united by the belief that the willingness to use military power is crucial ...” として “the blob” を使っていた(注7)

[用例2]としては The Washington Post (online) が “Trump fought the Blob and the Blob won. Why?” と題した記事で、 “...When Trump was running for president, he took great delight in disparaging “the blob,” Ben Rhode's ever-so-affectionate term for the foreign community...” として “the blob” を使用(注8)。

[用例3]としては Politico (online) が “Trump Takes on the Blob” と題した記事で、 “Ben Rhodes, President Barack Obama's aspiring novelist speechwriter turned foreign policy wingman, famously claimed to hate what he called The Blob...By the Blob, Rhodes meant the bipartisan class of foreign policy elites--Washington swamp dwellers like Hillary Clinton...” として “the blob” を使用していた(注9)。

注1) 上記[用例1][用例2][用例3]参照。また、日本経済新聞(紙版)2017年4月13日朝刊、6面「FINANCIAL TIMES/It is what you know/シリア攻撃 はらむリスク/ギデオン・ラックマン」参照。この日経記事は[用例1]フィナンシャル・タイムズ記事の完全翻訳である。また、blob はネットの個人日記のウェブサイトである blog(ブログ)に似ているので注意(1字違い)。
注2) 上記[用例1][用例2][用例3]と上記日経新聞記事参照。「ブロブ」と呼ばれる連中とは一般的にはヒラリー・クリントン元国務長官、ビル・ゲイツ元国防長官等の過去の共和・民主両党の安全保障分野のリーダー達を指す。
注3) 上記日経新聞記事参照。
注4) 同上。
注5) 上記[用例3]記事参照(ここでは引用されていない)。
注6) 最新オンライン辞典の「英辞郎」(アルク)と Weblio は blob の項目はあったが、上記の意味の訳語は無かった。市井の紙版の英和辞典には勿論上記の意味の blob の項目はない。
注7) Financial Times (print), April 11, 2017, p. 11, “How the blob swallowed Trump.”
注8) The Washington Post (online), March 7, 2017, “Trump fought the Blog and the Blob won. Why?” (https://www.washingtonpost.com/posteverything/wp/2017/04/13/trump-fought-the-blob-and-the-blob-won-why/?utm_term=.db8d45691546) (Seen on April 24, 2017).
注9) Politico Magazine (online), “Trump Takes on the Blob” (http://www.politico.com/magazine/story/2017/03/trump-foreign-policy-elites-insiders-experts-international-relations-214846) (Seen on April 24, 2017)




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