石山宏一の新語ウォッチング

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ジャーナリスト 石山宏一
石山先生のプロフィール  
<第164回> Updated March 4, 2019 更新日:2019年3月4日

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英和編 techlash 巨大IT企業への反発

techlash(発音は「テックラッシュ」)とは technology(技術、テック)と backlash(反発、反対)の合成語 (portmanteau) で「グーグル、アップル、アマゾン等の米国巨大IT企業に対する米国や世界の反発」を指すデジタル分野の新語(注1)。この反発運動はそうした企業が今まで集めた膨大な個人や団体、政府等の情報やデータを独占し、秘密裡に提供して稼いでいることへの世界の強い怒りが背景にある。この新語は2018年初頭に英国の雑誌 The Economist(エコノミスト誌)が組んだ特集「The World in 2018」(「2018年世界はこうなる」)で初めて造語したもので、瞬く間に主要マスコミが報道したため世界的に広まり、今年初頭には the American Dialect Society(アメリカ英語学会)と Oxford Dictionaries(オックスフォード辞典)が昨年一年間の The Word of the Year(年間新語大賞)の一つに選んだほどである(注2)。ちなみにITとは information technology(情報テクノロジー)の略語で、backlash の lash とは「まつげ (eyelash)」の意味もあるが主に「(人・動き等を)ひどく非難する」の意。

それにしても、これらひと握りの巨大IT企業の情報と知識の集中と収益・利益の独占には驚愕すべきものがあり、それへの techlash もうなずける。最近ではこれらの企業の中でも米国のは今や「GAFA」(発音は「ガファ」)と呼ばれ、Google, Apple, Facebook, Amazonの頭文字をとったものだが、今では「platformer」(プラットフォーマー=コンピューターの基盤環境)と呼ばれる。他の追随を許さないからである。中国にはこの米国版に匹敵する「BAT」というのがあるが、これは Baidu(バイドゥ)、 Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)の頭文字をとったもの。これら米中7社の毎日の総ユーザー数は単純計算で130億人と世界人口を上回る規模で、一旦この強力な勢力圏内に入ると個人も企業も逃れるのは難しい。これら企業にはとかく毎日データ、富、頭脳が集中し、その構図は米国で「New Monopoly」(ニューモノポリー=新独占)と呼ばれるほどである(注3)。

そして、これら企業は情報やデータを独占し、それを使って秘密裡に稼ぎ、また巨大な利益を蓄積し脱税していることの反発が世界中に起きている。例えば、欧州連合 (EU) の欧州委員会は昨年7月、グーグルに対してそのアンドロイド携帯ソフトが市場での独占的立場を得たとして、独占禁止法違反で巨大な罰金(43億4千万ユーロ、当時レートで5700億円)を課した(注4)。また、昨年1月に著名な投資家のジョージ・ソロス氏が「ダボス会議」でこうした巨大IT企業があまりに大きな経済的・政治的権力を持ちすぎていると非難したが、その後グーグルの幹部がそのソロス氏を批判するためにPR会社と契約していたこと認めた (注5)。また、巨大IT企業が税率の低い国に本社を置いて巨額の税金を逃れる「脱税」を防ぐため、欧州連合 (EU) の欧州委員会は昨年3月、暫定措置として、IT企業の世界での売上高に対して一律3%を課税する「デジタルサービス税」を提案した(注6)。もっともな話である。

techlash の邦訳語であるが、いろいろ調べた結果見つけることが出来なかったので、筆者独自の訳語で恐縮するが、上記の「巨大IT企業への反発」を適訳語とした。直訳のカタカナ語「テックラッシュ」も訳語として考えたが、これでは「ラッシュ」(-lash)が、「ラッシュアワー」の「ラッシュ」(rush=殺到)と誤解されるため、採用しなかった(注7)。

[用例1]としては Financial Times (online)(有料)が “Year in a Word: Techlash”と題した記事で、“Techlash (noun) The growing public animosity towards large Silicon Valley platform technology companies and their Chinese equivalents…” として “techlash” を使用(注8)。

[用例2]としては Wall Street Journal (online)(有料)が “‘Techlash’: Whipping Up Criticism of the Top Tech Companies” と題した記事で、“A little over a year ago, when the Economist made predictions for “The World in 2018,” one global theme that the magazine singled out was “the coming ‘techlash.’ …”” として “techlash” を使用(注9)。

[用例3]としては Bloomberg (online) が “Giant Techlash Chases Amazon Out of New York” と題した記事で、“The “techlash” just touched down in Queens, New York…it (Amazon) badly misjudged how New Yorkers react to the city giving huge tax breaks to an $800 billion company(which has paid no federal tax for two years…” して “techlash” を使っていた(注10)。

[用例4]としては Politico (online) が “In 2019, the ‘techlash’ will go from strength to strength”と題した記事で、“…For those hoping the new year will bring respite from this “techlash,” I have bad news: We’ve only just begun…” して “techlash” を使用(注11)。

注1) 上記[用例1][用例2」[用例3][用例4](ここでは引用されていない)参照。また日本経済新聞朝刊(紙版)2019年2月11日、1面「『新独占』IT 7社で130億人/企業や個人浸食 国家も翻弄」と SankeiBiz(オンライン版)、2018年12月3日、「巨大IT課税、着地点探る日本」参照(https://www.sankeibiz.jp/macro/news/181203/mca1812030500008-n1.htm)。なお、本コラム執筆にあたっては2019年1月12日中央区立明石町区民会館(東京・中央区)で開催された日本メディア英語学会第143回新語・語法研究分科会で小池温氏が行った発表を参考にした。ここに記して感謝したい。
注2) 上記の[用例1][用例2」[用例3][用例4](ここで引用されていない)参照。
注3) 上記日経記事参照。
注4) 日本経済新聞(オンライン版)2019年7月18日、「欧州委、グーグルに5700億円制裁金命令・独禁法違反で最高額」参照 (https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33113430Y8A710C1MM8000/)。
注5) [用例1](ここでは引用されていない)参照。Also see the Guardian, Nov. 22, 2018, “Facebook policy chief admits hiring PR firm to attack Soros” (https://www.theguardian.com/technology/2018/nov/21/facebook-admits-definers-pr-george-soros-critics-sandberg-zuckerberg)。
注6) 上記の SankeiBiz(オンライン版)記事(2ページ目)参照。
注7) 最新オンライン辞典の「英辞郎」(アルク)と Weblio は techlash の項目は無かった(2019年2月25日時点)。市販の日本の紙版の英和辞典には勿論、同項目は無い。
注8) Financial Times (online), Dec.17, 2018,“Year in a Word: Techlash” (https://www.ft.com/content/76578fba-fca1-11e8-ac00-57a2a826423e) (Seen on Feb. 25, 2019).
注9) Wall Street Journal (WSJ) (online), Jan. 10, 2019, “‘Techlash’: Whipping Up Criticism of the Top Tech Companies” (https://www.wsj.com/articles/techlash-whipping-up-criticism-of-the-top-tech-companies-11547146279) (Seen on Feb. 25, 2019).
注10) Bloomberg (online), Feb 14, 2019, Giant Techlash Chases Amazon Out of New York” (https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2019-02-14/amazon-abandons-new-york-hq2-the-techlash-strikes-again) (Seen on Feb. 25, 2019).
注11) Politico (online), Dec. 30, 2018. “In 2019, the ‘techlash’ will go from strength to strength” (https://www.politico.eu/article/tech-predictions-2019-facebook-techclash-europe-united-states-data-misinformation-fake-news/) (Seen on Feb. 25, 2019).




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